2022年05月20日 更新
CYBERDYNE株式会社 (茨城県つくば市、代表取締役社長:山海嘉之、以下「当社」) は、進行性の神経変性疾患であるALSに対する当社のHAL®️医療用下肢タイプ(以下、「医療用HAL」)に関する東邦大学医学部脳神経内科グループの研究成果が、日本内科学会が刊行するInternal Medicine※1にて国際論文としてオンライン版が公開されましたので、お知らせします。本論文においては、治療薬などによって進行の抑制はみられても筋力低下が改善することはない進行性の神経変性疾患であるALS患者に対して、HALによるサイバニクス治療を1年間継続したところ、対象となった3名全員がHALによるサイバニクス治療※2で歩行機能維持効果を見せました。2分間の歩行距離の平均値が300日経過時点でも治療開始前と同等の水準を維持しました。これまで、医療用HA Lによる治療に関しては、治験によって、ALS、SMAなど進行性の神経・筋難病疾患に対して治験期間中の治療効果が示され医療保険も適用されてきましたが、本論文は、1年間という長期に及ぶ治療効果を示したものであり、医学業界におきましても重要な成果です。
本研究を行なった東邦大学医学部神経内科の森岡治美助教(任期)、平山剛久講師、狩野修教授、さらにリハビリテーション医学講座の海老原覚教授らの研究グループは、2022年3月17日にもALS患者に対して、医療用HALを使用した短期間 (1〜2ヶ月)のサイバニクス治療に関する論文を公開していますが、今回の論文は1年間に及ぶ長期間の効果を報告したものであることを追記いたします。
◆ 発表のポイント
● 対象の3名全員がHAL治療クール前後、3回とも改善を見せた
● 2分間歩行距離の平均値では300日経過時点でも、治療開始前より高い水準を維持できた
◆ 論文の概要 (当社にて抜粋)
本研究では2019年1月から12月までに東邦大学医学部にてALSと診断された患者で、10m以上安全に自立歩行はできないものの、介助または歩行補助具を使用して10m以上歩行が可能な患者3名を対象としました。評価方法として、HAL治療3クール(各クール9回、頻度2-3回/週、1-2か月間。各クール間で最低2ヶ月間の間隔を設ける。実施時間:装着や休憩を除き20-40分)の前後で2分間歩行距離、10m歩行テスト(速度、歩幅、歩行率を評価)、ALSの運動機能評価尺度(ALSFRS-R)、Barthel Index(BI)、機能的自立度(FIM)、努力性肺活量を観察し、解析しました。その結果、症例数の少なさにより有意差は観察されなかったものの平均歩行距離は3クール経過後に平均16.61m (p=0.21)伸びました。また歩行率 (1秒間の歩数)は平均1.3歩 (p=0.02)増えこちらは、顕著な改善効果を示しました。なお、下記の図ではHALを使った歩行運動により2分間歩行距離の数値が維持された一方で、HAL下肢タイプの対象とならなかった嚥下機能や上肢の能力などを含むALSの運動機能評価スケールALSFRSRがALSの進行と共に低下したことを表しています。
◆ 発表雑誌
書誌名:「Internal Medicine 61巻 (2022) 10号」(2022年5月15日)
論文タイトル:Effects of Long-term Hybrid Assistive Limb Use on Gait in Patients with Amyotrophic Lateral Sclerosis
著者:Harumi Morioka, Kiyoko Murata, Tatsuki Sugisawa, Mari Shibukawa, Junya Ebina, Masahiro Sawada, Sayori Hanashiro, Junpei Nagasawa, Masaru Yanagihashi, Takehisa Hirayama, Masayuki Uchi, Kiyokazu Kawabe, Satoru Ebihara, Yoshitaka Murakami, Takashi Nakajima, Osamu Kano
DOI番号:10.2169/internalmedicine.8030-21
論文URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/61/10/61_8030-21/_pdf/-char/ja
◆狩野 修教授のコメント
私どもは、ALS患者に対するHALを用いた短期間の治療(1〜2ヶ月)において、歩行機能の改善効果がみられることを報告した(Morioka H et al. Journal of Clinical Neuroscience 2022)。そして今回は1年間という長期間の観察をし、ALS患者がHAL治療を導入することにより、歩行機能が維持されることを確認した。ALSは、薬剤やリハビリテーション治療で進行抑制が可能とされているが、病気を止めることは現時点で実現できていない。実際に本研究のALS 患者の歩行以外の症状は、経時的に悪化していた。今後、HAL治療の症例を積み重ねることにより、生命予後延長の効果や生活の質(QOL)への影響を検証する必要があると考えている。
本研究結果は、東邦大学ALSクリニックのスタッフ全員のご協力のお陰であり、この場を借りて深謝したい。
※1 日本内科学会 英文雑誌は、臨床現場で役立ち、医学教育に資する雑誌を掲げ、内科医の育成及び内科学の発展に寄与することを目的に、症例報告を含む、総説論文、原著論文ならびに画像報告等を電子ジャーナルとして月2回 (1日、15日) 刊行しています。
※2 サイバニクス治療とは、脊髄損傷や脳卒中、神経筋難病疾患の患者に対し行う、装着型サイボーグHALを用いた機能改善・機能再生治療です。
人が体を動かそうとするとき、脳から運動ニューロンを介して筋肉に神経信号が伝達されることで、関節などの筋骨格系が動きます。このとき、人の「動かしたい」という動作意思が反映された微弱な“生体電位信号”が皮膚表面に漏れ出します。HALは、“生体電位信号”を読み取りパワーユニットをコントロールすることで、人と一体となって関節の動きをアシストすることができます。この動作意思を反映した生体電位信号を活用する装着型サイボーグHALを用いると、HALの介在により、HALと人の脳・神経系と筋系の間で人体内外を経由してインタラクティブなバイオフィードバックが促されます。脳・神経・筋系の疾患患者の機能改善が促進されるというiBF理論(interactive Bio-Feedback:インタラクティブ・バイオフィードバック理論)に基づいたサイバニクス治療が行われ、臨床現場を通じて人の下肢・上肢・体幹など様々な身体機能の機能改善事例が報告されています。サイバニクス治療では、人の脳からの「動かしたい」という自発的な指令信号が、脊髄や末梢神経を介して筋骨格系に伝わり身体が動くだけでなく、実際に「動いた」という感覚のフィードバックを再び人の脳へ戻すことが重要なカギとなります。
このiBF理論に基づくHALを用いた機能改善・機能再生治療技術は、生体が持つ自己治癒能力を賦活化し、人の脳・神経・筋系の機能の改善・再生を可能とする革新的治療技術です。
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