2022年08月08日 更新
緩徐進行性の神経筋難病である球脊髄性筋萎縮症(SBMA)(※1)の患者に対する医療用HAL®︎下肢タイプによるサイバニクス治療の効果について、中島孝医師(国立病院機構新潟病院 院長)を責任著者(corresponding author)とする論文 “The Combined Efficacy of a Two-Year Period of Cybernic Treatment With a Wearable Cyborg Hybrid-Assistive Limb and Leuprorelin Therapy in a Patient With Spinal and Bulbar Muscular Atrophy: A Case Report” が、国際ジャーナル「Frontiers in Neurology」に2022年6月に掲載されたことをお知らせいたします。本論文では、リュープリン(※2)による治療にHAL®︎によるサイバニクス治療を加えることにより、従来の治療方法では難しいとされていた緩徐進行性患者の歩行機能改善と同時に、神経筋の損傷を反映した血清クレアチンキナーゼ(CK)値が低下 (改善) することが報告されており、画期的な成果として掲載されております。
【論文のURLリンク】
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fneur.2022.905613/full
【論文の概要について】
本論文では、リュープロレリン酢酸塩(リュープリン)(※2)による抗アンドロゲン療法の開始1年後に、医療用HAL®︎によるサイバニクス治療を開始したSBMA患者(39歳男性)の症例を紹介。
本症例においては、サイバニクス治療を1日1セッション20~30分行い、2週間で9セッション(1クール)行いました。その後、リュープリンによる治療と医療用HAL®︎によるサイバニクス治療を2ヶ月ごとに2年間併用(計13クール)。
2分間歩行テストで評価した歩行能力は、1クール目で20.3%改善し、併用療法開始10ヶ月後にはピークに達し(59.0%の改善)、治療期間中に歩行機能は維持されました。
なお、SBMAでは、通常、神経筋の病変を反映して血清クレアチンキナーゼ(CK)値が高値であることが特徴であり、運動療法によってさらに上昇するとされてきました。この症例においては、今までは不可能とされてきた、治療によるCK値の顕著な低下が示されました。
このように、本論文はリュープリン(嚥下障害の進行を抑制することができますが、歩行機能の改善は証明されていない)に医療用HAL®︎によるサイバニクス治療を併用することにより、運動単位(運動ニューロンとそれが支配する筋線維からなる)にダメージを与えることなく歩行機能を改善させ、長期には疾患の進行を抑制できる可能性を示唆する内容となっております。
<国立病院機構新潟病院院長 中島孝医師のコメント>
本研究は国立病院機構新潟病院にて行われた症例の観察に基づくもので、旧来の考え方を打ち破る画期的内容であったため、論文審査において、査読者が公開され厳密な議論も記録される国際医学雑誌、Frontiers in Neurologyに投稿され、審査の後、症例報告としてアクセプトされ、出版されたものです。HAL®︎の詳細な治療メカニズムが記述されている価値ある論文とも言えます。
本症例報告では、神経筋難病疾患の一つである球脊髄性筋萎縮症(SBMA)の承認された最新治療法が取り上げられています。この疾患の「生活の質」と「生命予後」は嚥下障害と歩行機能障害の程度により左右されることが分かっており、日本で承認されている病因に対する治療法であるリュープロレリン酢酸塩は、嚥下障害に有効ですが、歩行機能は改善しないという課題がありました。
運動療法は神経筋疾患に対しては、運動器の過剰興奮を招き疾患を悪化させると、伝統的に懸念されていましたが、装着型サイボーグHybrid Assistive Limb(HAL®︎)を用いた革新的な運動療法(サイバニクス治療)は、SBMAを含む神経筋8疾患に対して安全かつ有効であることを臨床試験(医師主導治験)により証明・報告しました(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34233722/)。
本症例報告で、SBMAのリュープロレリン酢酸塩治療において、HAL®︎を併用することで歩行機能は改善し長期に維持できることが示されました。さらに、筋損傷バイオマーカーである血清CK値が著明に低下したことで、運動療法における旧来の問題を打ち破ると同時に、疾患自体に対しても画期的な治療法となっていることも分かりました。したがって、このHAL®︎を用いた複合療法は、SBMA治療自体におけるブレークスルーであると同時に、複合治療モデルとして、他の神経筋疾患である脊髄性筋萎縮症やデュシェンヌ型筋ジストロフィーなどにおいて、原因治療法だけでは十分に運動機能が改善しない場合の解決法を示唆したと言えます。本研究結果は症例報告ですが、他の神経筋疾患の治療戦略にもインパクトを与える論文として高く評価されました。
(※1)球脊髄性筋萎縮症(Spinal and Bulbar Muscular Atrophyの頭文字をとりSBMA)
通常成人男性に発症する、遺伝性下位運動ニューロン疾患である。四肢の筋力低下及び筋萎縮、球麻痺を主症状とし、女性化乳房など軽度のアンドロゲン不全症や耐糖能異常、脂質異常症などを合併する。筋力低下の発症は通常30~60歳頃で、経過は緩徐進行性である。国際名称は Spinal and Bulbar Muscular Atrophy (SBMA)であるが、Kennedy diseaseとも呼ばれる。
出典:難病情報センターHP https://www.nanbyou.or.jp/entry/234
(※2)リュープリンSR(武田薬品工業株式会社、2017年8月に効能追加承認)
効能・効果:球脊髄性筋萎縮症の進行抑制
用法・用量:通常、成人には12週に1回リュープロレリン酢酸塩として11.25mgを皮下に投与する。
出典:武田薬品工業株式会社HP https://www.takeda.com/jp/newsroom/newsreleases/2017/20170828_7818/
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